動物と自然日本語
やかんとモモ
ミナは、ボウルの中の粉をぐるぐるまぜていた。台所じゅうが、雪がふったみたいに白い。
「ホットケーキを作ろうね。モモが来て、はじめての朝ごはんだよ」
モモは、きのううちに来た子犬だった。ミナは、モモとなかよしになりたかった。でもモモは、テーブルの下で小さくなって、ふるえている。
「おいで、モモ」
モモは動かない。
ミナはしゃがんで、手をのばした。モモは奥へさがった。
「おいで、モモ」
ホットケーキのかけらを床においた。モモは、くんくんしただけだった。
どうしよう。ミナは床にすわって、しばらく何も言わなかった。それから、ふと立ちあがって、やかんに水を入れた。
このやかんは、水を入れた人の歌をうたう。ミナのときは、ぴーひょろ、ぴーひょろ。パパのときは、ぼーぼー、ぷう。
火にかけると、やかんがうたいだした。
ぴーひょろ、ぴーひょろ。
テーブルの下で、モモの耳がぴくっと立った。
ミナは気がついた。モモは、この歌が気になるんだ。
ミナは小さな声で、やかんといっしょにうたった。
「ぴーひょろ、ぴーひょろ」
モモの鼻が出てきた。つぎに顔。つぎに、まっ白な粉の上に、ぺた、ぺた、ぺた。小さな足あとがついた。
「おいで、モモ」
モモはミナのところまで来て、くしゅん!とくしゃみをした。粉がふわっと舞って、ミナの鼻も白くなった。
ミナは、ふふっと笑った。火を止めると、ぴーひょろは、ゆっくり小さくなって、消えた。
モモは、ミナのひざに頭をのせた。焼きたてのホットケーキみたいにあったかくて、ちょっと重い。台所はしずかで、ボウルの粉が、まだ少しだけ、ふわふわ光っていた。