感情ときもち日本語
ミナとあわのふんすい
ミナは、たまごを両手でそうっとかかえて歩いていた。お店に残っていた、最後のひとつだ。今夜は、おそいばんごはん。パパの大すきなふわふわのたまごやきを、ミナがつくってあげるのだ。
近道の広場に、ふんすいがあった。うたをうたうと、水のかわりにあわがぷくぷく出てくるふんすいだ。
「ふんふん、ふーん」
ミナがハミングすると、あわがふわっとのぼった。そのとき、くつがこいしにひっかかった。
ぱきっ。
たまごはわれて、きいろいのがてのひらにたれた。
ミナは口をきゅっとむすんだ。
「ないてない。ないてない」
でも、はなのおくがつんとする。ミナは息をとめて、顔がまっかになった。
ベンチの下から、青いかえるがひょこっと出てきた。
「どうしたの」
「なんでもない」
「ふうん。ぼくはあわをまってるだけ。夜のあわは、おふろにちょうどいいんだ」
かえるはふんすいのふちにすわって、そっぽをむいた。
ミナはわれたたまごをくっつけようとした。くっつかない。もういちど、ぎゅっと目をつぶった。
「ないてない、ないてな……ひっく」
こえがもれた。
「うう、うううー」
すると、ふんすいがぷくぷくぷく! 大きなあわがいくつも出てきた。ミナがひっくとなるたびに、ぽん、ぽん、とあわがうかぶ。
「あっ」
びっくりして、また、ひっく。ぽん。
「いいあわだ」
かえるはそう言って、つるんとあわの中にとびこんだ。
ミナはわらいながら、ぽろぽろないた。なみだが出るだけ出ると、むねがすこしかるくなった。
うちに帰ると、ろうそくのゆれるテーブルで、パパがまっていた。
「パパ、たまご、われちゃった」
ミナの目が、またじわっとなった。
パパはミナをだっこして言った。
「泣いてもいいんだよ」
ミナはパパのむねに顔をつけた。ろうそくの火がゆらゆらゆれて、あたたかいパンのにおいがした。