感情ときもち日本語
ゆきだるまの にんじん
ミオは、おとなりの男の子に「いっしょにあそぼう」と言いたかった。
男の子の名前はレン。きのう引っこしてきたばかりだ。いま、庭で雪だるまを作っている。ミオはポケットに小さなにんじんを入れて、門のうしろに立った。
「いっしょに……」
こえが、ちいさくなっちゃう。さいごのところは、息みたいになって消えた。レンは雪をころころ転がしていて、気づかない。
ミオは考えた。雪だるまには、まだ鼻がない。そうだ、にんじんをそっと置いておこう。
ミオはこっそり柵のところへ行って、にんじんを置いた。ところが、にんじんはころりと転がった。ぽとん。雪のあなに落ちて、見えなくなった。
「あれえ」
レンは雪だるまの顔を見て、首をかしげた。鼻がないままだ。
ミオは空を見上げた。雪がふってきて、ミオの鼻にひとつのった。
ちりん。
もうひとつ。ちりん、ちりん。この町の雪は、鼻にのるとベルみたいに鳴る。みんな知っている。
ミオは思った。大きなこえが出ないなら、この音を聞いてもらおう。
顔を上にむけたまま、じっと立った。ちりん、ちりん。
レンがふりむいた。
「いまの、なんの音?」
「……わたしの、はな」
こえは、ちいさい。でも雪の日はしずかだから、ちゃんととどいた。
「いっしょに、あそぼう」
今度は、さいごまで言えた。
「ぼくのも、なるかな」
レンも顔を上にむけた。ちりん。
「なった!」
ふたりで笑った。
それからミオは雪のあなに手を入れて、にんじんをさがした。あった。ミオは雪だるまの顔のまんなかに、にんじんをぐっとさした。
雪はまだふっている。雪だるまの鼻にも、ミオの鼻にも、レンの鼻にも。ちりん、ちりん、ちりん。三つの音が、庭にひびいていた。