季節と天気日本語
ミナとバケツのかえる
「ぽとん」という音がして、ミナはバケツをかかえて走った。
天井から、水のしずくが落ちている。ミナは、おばあちゃんの毛糸のかごをぬらしたくなかった。雨の日の午後は、毛糸でくつしたをあむ時間なのだ。
ミナはバケツを床に置いた。
ぽとん。しずくは、バケツのよこに落ちた。
「あれ? こっちじゃないの?」
バケツを右にずらすと、ぽとん。しずくは左に落ちた。左にずらすと、ぽとん。こんどは、うしろだ。
「もう、どこに落ちるの?」
ミナは、おなべとおわんも並べてみた。でも、しずくはどれにも入らない。床には小さな水たまりが、ひとつ、ふたつ。
そのとき、窓から緑色のものがぴょん、と入ってきた。かえるだ。かえるは雨がすきで、ぬれた床がうれしそうだった。
「ここは、あなたの家じゃないのよ」
ミナが言っても、かえるは水たまりの上でのんびりしている。
ミナは、天井をじっと見上げた。
しずくは、天井の木のふしに集まって、大きくなってから落ちている。どこでもない。いつも、ふしからだ。
「そっか。ふしだ!」
ミナは毛糸のはしっこを、ふしにむすんだ。毛糸の先を、バケツの中にたらす。
しずくがふしにたまった。つつーっ。毛糸をすべって、バケツにすとんと入った。
「できた!」
ミナはうれしくて、バケツの水をまどからざばっと捨てた。でも、バケツには、いつも指一本ぶんの水が残る。そういうバケツなのだ。
かえるが、ぴょんとバケツにとびこんだ。
ぽちゃん。
かえるは、のこった水の中で目をつぶった。
ミナはその横にすわって、毛糸をあみはじめた。
つつーっ、ぽとん。
雨の音の中で、毛糸の先からバケツへ、しずくがひとつずつ落ちていった。