まちのお仕事日本語
ゆうびんやさんのながれる川
山のふもとの村に、小さな川がありました。この川は、毎月一日だけ、山のほうへさかさに流れます。村の人は、だれもふしぎに思いません。
ハルは、この村のゆうびんやさんです。今朝は一日。赤いかばんの中には、うめおばあさんへの手紙が一通入っています。
「朝ごはんまでに、とどけるよ。とん、とん、とどけます」
川のむこうが、おばあさんの家です。川には石が並んでいます。ところが、まんなかの石と石のあいだが、ひろくあいていました。ひと足では、とどきません。
「えいっ」
ハルはとびました。ぽちゃん。足がびしょぬれです。くつの中で、ぐじゅっと音がしました。
「もういっかい。とん、とん、とどけます」
こんどは長い木のぼうを立てて、とぼうとしました。でも、ぼうは川の中でぐにゃりとすべって、ハルはしりもちをつきました。
そこへ、あひるがすいすい通りました。川の流れにのって、山のほうへ行きます。
「クワッ」
「きみは、どこへ行くの」
「クワッ、クワッ」
あひるは、山の上の池へ朝のおよぎに行くところでした。ハルのほうは、見向きもしません。
ハルは川を見つめました。葉っぱも、小えだも、みんな山のほうへ流れていきます。そこへ、うすい板が一まい、くるくる流れてきました。
「あっ。あれだ」
ハルはかばんのひもを、さっと投げました。板のはしにひっかかります。そっとひっぱって、石と石のあいだにのせました。板は、ぴたり。橋になりました。
「とん、とん、とどけます」
ハルは、そうっとわたりました。板は、ゆらゆらしましたが、おちません。
うめおばあさんが、戸をあけました。やかんが、ぴーっとなっています。
「おや、ハルさん。くつが、ぐじゅぐじゅだね」
「はい。でも、お手紙です」
うしろでは、川がさらさら、山のほうへ流れていきました。