感情ときもち日本語
ぜんまいがえる
ハルがおもちゃ屋で見つけたのは、背中にぜんまいのついた、みどりのかえるだった。
いちばん下の棚に、ひとつだけ残っていた。
「これがいい!」
ハルは両手でかえるをつかんだ。そのとき、もうひとつ小さな手が、かえるの足をつかんだ。ユイだった。
「わたしが先に見つけたの。いもうとのたんじょうびなの!」
「ぼくの!」
ふたりでひっぱった。ぽきん。かえるの足がとれた。
外は雨で、丘がふんふんとハミングしている。店の中では、ハルのおなかがあつくなった。やかんみたいに、ぴーっと鳴りそうだった。
「ユイちゃんのせいだ!」
ハルは床をどんどんふんだ。でも、あついのは消えない。ユイは口をへの字にして、目に涙をためた。
店の人がベルを鳴らした。ちりん。
「もうすぐ閉めますよ」
ハルはもういちど大きな声を出そうとして、やめた。かわりに、あついスープをさますみたいに、ふう、ふう、と息をはいた。おなかのゆげが、少しぬけた。
そしてハルは、かえるの足のあなを見た。
「あ」
ポケットに手を入れると、ペンから出てきた小さなばねが入っていた。
「これ、足になるかも」
ハルがばねをさしこむと、ユイが赤いヘアゴムをくるくる巻いた。
「ぐらぐらしないように」
ぜんまいを回す。かえるはぶるっとふるえて、ぴょん、ぴょん、と棚の上をはねた。ばねの足だから、ふつうのかえるよりずっと高い。
ぴょーん!
かえるは、ふたりのあいだにぽとんと着地した。
「わあ」
「わあ」
ハルのおなかは、もうあったかいだけだった。外ではまだ、丘がふんふんと歌っている。ユイがそっとぜんまいに指をのせた。
「もういっかい、回す?」
「うん。もういっかい」