はじめての体験日本語
ハルの大きな冒険
「まだ入らないよ」と、ハルは言いました。
ハルは四さいの女の子です。きょうは、お医者さんに行く日。せきが出るので、見てもらいます。なおったら、あしたは池へ行けます。池のまわりのはすの葉は大きくて、ハルがのっても、しずみません。ハルは、その上でぴょんぴょんとびたいのです。
お医者さんの屋根に、カラスが集まっていました。入口のかかしが、くるりとむきをかえて、カラスのほうを見ました。ここでは、いつものことです。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」
ハルはドアを少しあけて、のぞいて、すぐしめました。もういちどあけて、こんどは足だけ入れて、すぐ引っこめました。
三どめに、やっと中に入りました。
「こんにちは、ハルさん」
先生は、めがねを頭の上にのせたまま、にこにこしています。
「むねの音をきくよ。ちょうしんきを、ぺたっとあてるからね」
ハルは、ちょうしんきを見ました。銀色で、とても冷たそうです。
「やだ。冷たいもん」
「ふむ。冷たいかもしれないね」
先生は、こまった顔で、めがねをさがしはじめました。頭の上にあるのに、気がつきません。
ハルは、ふと思いつきました。
「かして」
ハルは、ちょうしんきを両手でつつみました。ふーっ、ふーっ。いきをかけて、ごしごしこすります。
「あったかく、なった?」
ハルはほっぺにあててみました。ちょっとだけ、ぬるい。
「うん、なった」
ハルは自分で、シャツの中にぺたっとあてました。
ドクン、ドクン、ドクン。
先生が耳をすませました。ハルの中で、小さな太鼓がなっています。
「いい音だ」と、先生は言いました。
ドクン、ドクン。ハルも、じっときいていました。